不動産を売却する際、多くの売主は少しでも高く、そして早く売りたいという心理から、自費でリフォームをしてから市場に出そうと考えます。しかし、不動産流通の実務的な観点から申し上げますと、売却前のリフォームは原則としてしないほうがいいというのが鉄則です。これには明確な理由がいくつかあります。まず一つ目は、リフォーム費用を売却価格にそのまま上乗せできる保証がどこにもないという点です。例えば三百万かけてキッチンと浴室を新しくしたとしても、その分だけ査定額が三百万上がることは稀であり、多くの場合、投資額を下回る評価しか得られません。つまり、リフォームをすればするほど、売主の手元に残る利益が削られるという計算になります。二つ目は、購入者のニーズの多様性です。最近の住宅購入層、特に中古物件を検討している人々は、自分たちの好みの色や素材でリフォームをすることを楽しみにしている場合が多いのです。売主が選んだ新品の壁紙や設備が、必ずしも買主の好みに合うとは限りません。むしろ、中途半端にリフォームされていることで、買主にとっては自分たちの思い通りにできない、あるいはせっかく新しいものを壊すのがもったいないという心理的心理的な障壁となり、かえって成約を遠ざける結果になります。三つ目は、瑕疵担保責任、現在の契約不適合責任に関するリスクです。リフォームをして引き渡した場合、そのリフォーム箇所に不具合があれば、売主が責任を負わなければならない期間が生じます。何もせず現状有姿で売り、その分価格を調整するほうが、売却後のトラブルを回避する上でははるかに安全です。もちろん、あまりにも不潔であったり、明らかに壊れている箇所があったりする場合は最低限のクリーニングや修繕が必要ですが、それはあくまで清潔感を出すためのものであり、価値を上げようとするためのリフォームとは一線を画すべきです。賢い売主は、リフォームに多額の資金を投じる代わりに、プロによるハウスクリーニングを徹底し、室内を明るく見せるためのステージングに注力します。住まいの魅力を引き出すのは、新しい設備ではなく、大切に使われてきたという丁寧な管理の痕跡なのです。